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   西田 亙の本:GNU 開発ツール -- hello.c から a.out が誕生するまで --

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2004-03-12 (Fri)

[Linux] Linux BIOS

Open source stackable BIOS

読者の方々より、「お勧めの書」をもっと紹介してほしいとリクエストを頂く。が、しかし。自信をもってお勧めできる書籍に邂逅できるチャンスは、年に数えるほどしかないのよねぇ・・と思っていたところ、 Bochs-developers ML に流れた "LinuxBIOS works with BOCHS" と題する昨日のメールが目に止まった。

LinuxBIOS は、「PC の Flash ROM-BIOS を Linux 専用 BIOS で置き換えてしまおう!」という、なんとも大胆なプロジェクトであり、かねてから注目していた。ただ、当然のことながらサポートしているチップセットが限られているため、誰でも追試できる訳ではない。Flash ROM の書き換えに失敗したり、バグ入り ROM-image を書き込んでしまえば、Dual-BIOS でもない限り、マザーボードはお釈迦である。

ということで、これまでは遠巻きに観察していたのだけれど、本メールの内容は、怖じ気づいたおじさんの闘志を奮い立たせるだけのパワーを持っていた。と同時に、久々にネット上で唸るような文書に出会うことができたので、ご紹介しておこう。

Linux BIOS at Four

まずは、メールの内容に従い Linux Journal で公開されている "Linux BIOS at Four" をチェック。著者は、LinuxBIOS の作者である Ronald Minnich 氏。同氏は Los Alamos National Labs において PC cluster 構築に取り組んでいたが、従来のメーカー製 BIOS (AMI BIOS, Award BIOS etc.)に限界を感じたため、LinuxBIOS の開発に取り組んだ・・という背景があるらしい。

ざっと斜め読みした限り、Linux BIOS at Four は、文章が硬い。平たく言えば、読みづらい(それでも、多くのオンライン上のドキュメントに比べれば良い出来だが)。歳を取ってくると気が短くなるのか、読みづらい文章に辛抱強く付き合うことが出来なくなる。

ということで、Linux BIOS at Four はひとまず横に置いて、次の文書へ進む。

[Thoughts] 大学教育とプレゼンテーション能力

Awarded Best Student Paper

メールの後半で紹介されていた Maryland Information Systems Security Lab のページを訪れる。MISS は Arbaugh 教授が運営しているラボであり、本メールで紹介されていたのは "SEBOS: LinuxBIOS Secure Bootloader" というプロジェクトらしい。「広目天」がいささか気になるが、寄り道せずに SeBOS のページへ。

まずは、Main ページ。一言、「つまらん」。正直拍子抜けしてしまったのだけれど、本能が「宝がどこかに隠されているはず」と告げている。話題としては十分面白い内容なので、このサイトのどこかに価値ある情報が隠されている可能性が高い。

ポチポチクリックしていると、"Phase 2" に記された文章が、脳内にスーッと染み入って来た。手際よく良くまとめられた Abstract だ。内容も極めて面白い。久々に、ワクワクするような感じを味わう。

これは、じっくり調べる価値がありそうだ・・ということで、Publications のページへ。そこで、2003 USENIX Annual Technical Conference で発表された "Flexibility in ROM: A Stackable Open Source BIOS" という論文に出会う。速攻プリントアウト&読みふける。一言、「すっげ〜〜〜!!」

流れるような論理展開、文章の簡明さ、明晰さ。どれを取っても一級品だ。「良くできた論文だよねぇ」と感心していると、タイトル上に書かれた "Awarded Best Student Paper!" という文字が目に入る。

へ、これ学生さんが書いた論文ですかい?博士論文でも、修士論文でもないの?信じられ〜〜〜ん!!

教授の指導下とは言え、この論文の完成度はただ事ではない。受賞は当然という気がする。わずか10ページの論文ではあるが、Firmware に興味のある方々は是非一読されると良いだろう。

組み込み機器の開発にあたってまず必要になる知識は、Firmware 開発のためのノウハウだが、私が知る限り、頼りになる資料はこの世に存在しない。そんな状況の中で、本論文は明確な道しるべを私達に提示してくれている。組み込み野郎にとっては、MUST READ の逸品だ。

大学教育

MISSL Labo を見ていると、改めて大学における教育の重要性を痛感させられる。もしも、Linus Torvalds 氏がこのようなラボで教育を受け、Linux kernel が USENIX に掲載されるようなことがあれば、時代は変わっていたかもしれない。

Linus 氏は、Linux に関してほとんど文書を残していない。これは、彼が大学において Writing を含め、Presentation のトレーニングをほとんど受けていないことによるのではないだろうか?

Nerd vs Professional

「Nerd と Professional の違いは、Presentation 能力の有無にある」ような気がする。国内外の企業を観察していると、企業の世界にも確かに Nerd と Professional が存在する。両者における、Presentation 能力を巡る力量差は歴然としており、大人と幼稚園児ほどの差があると言っても、過言ではないだろう。

我々人間に与えられた時間には、限りがある。貴重な時間を有効に使うためには、Professional の手になる優れた文書が必要不可欠だが、その数は余りに少ない・・。